マスメディアの自己規制を知る(2016-9-13)
『報道の自己規制』と題する本が先月刊行された。著者の上出義樹氏は報道の現場に45年いて、現在も記者会見で質問するフリーのジャーナリスト。同時に今年3月には上智大学で新聞学の博士号を取得した研究者でもある。その経験に裏付けられた本書は、マスメディア企業人の立場が、本来のジャーナリストとは違う行動に、必ずしもその意識なしに向かわせていることを指摘する。
報道の姿勢を批判する論考は多いが、それが企業人・組織人であることにより報道を自己規制している実態に触れている文献はほとんど見られないらしい。
特に「自己規制と記者たちの認識(第7章)」「自己規制の朝日新聞モデル(第8章)」はマスメディアの担い手たちの意識を直接調査した貴重なデータといえるのだろう。そこからはさまざまなことが読み取れるはず。
たとえば、「ジャーナリズムに影響を与える社会的要因」については、「日常生活へのインターネット普及」が57.7%の記者が「大きな影響あり」と答えてトップ。また、「ジャーナリズムが果たすべき役割」として「とても重要」がトップになったのが「政治指導者を監視・調査する」であった。
今、ニュースの焦点になっている蓮舫氏の二重国籍問題は「政治指導者を監視・調査する」ジャーナリズムの役割をインターネットのソーシャルメディアが担ったことから始まったものであり、豊洲市場の問題も、新聞・テレビよりインターネットでの議論が先行している。
取材先と親密になり、自己規制の上に成り立つ日本的な仕組みの中にある既存メディアが、インターネットメディアの台頭によりこれからどうなるのかについては、本書での考察の対象外である。「編集権」と「内部的自由」の議論が、自己規制の克服に向けた第一歩になるのかも知れない、と本書では結んでいるが、インターネットメディアでは自己規制のない議論が行われていることも事実だろう。
いずれにせよ、まずマスメディアの自己規制の現実を具体的に知っていることは有益である。個別報道についてのメディア批判をする前に、本書を読んでおくと役立つに違いない。