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お爺さんための渋谷ガイド(12-5-5)

先日「お爺さんの原宿」と書いた。無論「お婆さんの原宿」という言葉があるからなのだが、今では余り言わないのかも知れない。「お婆さんの原宿」の巣鴨だと、特に目立った特長がないから、若者が狭いところに集まる竹下通りを意識して原宿という名称に意味があるのだろうが、渋谷に原宿を持ち込む必要はない。いうまでもなく、渋谷は原宿よりメジャーブランドなのだから。

むしろ「お爺さんの渋谷」とでもした方がよいのだろう。お爺さんといっても60代。若い頃ジーンズをはいてジャズ喫茶なんかに通った世代だから、お爺さんという言葉は適切ではないかも知れないが、孫が出来たという人もいるのでそう呼ぼう。大人なんかではなく、お爺さんでよいのだ。

今、ヒカリエが話題になっている。でもそこは女子トイレを売り物にするほど、働く女性をイメージターゲットにしているシンクスが主体。お爺さんが行く場所ではない。渋谷が若者だけの街ではない、ということをヒカリエがアピールすることに意味があるとしても、お爺さんには無縁の場所としてよいのではないか。

お爺さんが堂々とできる渋谷は道玄坂の裏町。ラブホテルに用のない若い人は入りにくい街だ。ラブホテルに対して羞恥心もなくなった、お爺さんだからこそ楽しめる隠れ家のような街ともえいる。青春時代を思い起こさせるような店がいくつもあるし、銀座・赤坂・六本木、新宿・神田・新橋なども卒業して、酒も食事もほどほどに、ということになったところで落ち着けるのがこの渋谷の隠れ家地帯なのだ。

入り口は東急本店前。正面にラブホテルが見える坂道を登る。するとすぐ左の角に「児島ジーンズ」の店がある。小さな店なのだが、ジーンズの産地、岡山県児島で生地から縫製まで一貫して仕上げた優れた製品を手ごろな価格で販売している。まずここでジーンズを買うことからスタートしよう。裾直しは児島に送って1週間かかるので、そのまま裾を捲り上げてはいてしまうとよい。それもファッションだ。

ジーンズのスタイルになったら、「児島ジーンズ」の横の袋小路の突き当たりにある「ポスター・ハリス・ギャラリー」へ。60年代から70年代にかけてのサブカルチャーの空気が保存されているような場所だ。そこでお爺さんの青春に帰ろう。

「ポスター・ハリス・ギャラリー」を出て折り返すと下り坂。右側にあるカウンターの喫茶店は「リーミーズ」。ホテル・バーでの経験の長いオーナーが作るカクテルを昼間から飲むこともできる。コーヒーやチャイの味も本格的で、50年代から70年代にかけてのアメリカンポップスのレコードが聴ける。ひたってしまうからここに入るのは帰り道に。

「児島ジーンズ」の前から更に坂を登り、右に折れてすぐ左の坂道をあがってもよいが、ここはもう一つ先の坂道を左に入ることにする。「眠りの森の美女」という看板が目印になるかもしれない。坂道を上がりきったところがどこなのか、方向感覚がなくなってしまいそうな場所だ。そこをすぐ左に入ると千代田稲荷神社の境内となる。こんな所に神社が!という驚きとなる。神社でお参りをして、神社から左に折れた右側に名曲喫茶「ライオン」がある。さまざまな雑誌に何度も紹介される日本を代表する名曲喫茶である。渋谷の名所ともいえるのだが、1階と2階に席があって、入れないということはまずない。ここでクラシック音楽を聞きながら、古い建物を味わうとよい。トイレも昔のままで、大学紛争時代の落書きも残っていた。ヒカリエの女子トイレの対極にあるともいえるだろう。「ライオン」かれ出るのは裏口にしよう。またどこにいるのか分からなくなるが、そこが百軒店商店街のメインストリートなのだ。今はビルが両側にあるが、かつてはそこに3軒もの映画館があって渋谷を代表する歓楽街だった。

今日はここまで。明日続きを。

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