そば屋で憩う(11-6-9)
101店のソバ屋のガイドブック『ソバ屋で憩う』という平成11年に出た文庫本で、杉浦日向子がこう書いている。「ふだんのなかに、もっと憩いを。料亭やレストランではない。はやりのグルメ・スポットや居酒屋ではない。ソバ屋でたしなむ酒の味。こんな時間が持てるということ。これぞいままで、生きてきた甲斐があるというもの。ラクーになれます。食欲ではない、楽欲が満たされます。ソバ屋で憩うのは、いかがですか」とまえがきに。あとがきでは「良い加減のよい大人はソバ屋でつくられる」と結ぶ。それから6年たった平成17年に著者は46歳の若さで逝去した。
そんな大人が楽しめるソバ屋は、今どうなのか。道玄坂上に2店あったソバ屋はこの3〜4年の間になくなってしまった。ソバ屋のメニューは立ち食いソバ屋にほとんどあるし、一方、板わさ、卵焼き、焼き海苔といったソバ屋のメニューで酒を飲むという機会も閉店時間が早いだけに得難い。遅い時間から飲めて、酒のつまみのメニューが豊富な居酒屋の方がよいということでもあるだろう。
その上、立ち食いソバのチェーン店が多くなった。しかし、信州屋という立ち食いソバ店は昭和61年の開業の店なのに渋谷の他新宿に出店しただけで、その質の高さには驚くほど。調べてみるとフードサービスのクマガイコーポレーションの9つある飲食店ブランドの一つという位置づけで、それらの店は1ブランドをのぞいて渋谷にある。ソバの信州屋だけが渋谷の他に新宿南口との2店舗展開となっている。チェーン店ではなくパイロット店ということなのか。いずれにせよ、2店舗ではチェーン店とはいえない。
信州屋は、もりそば250円、天丼450円、カツ丼550円という価格設定。しかし、少なくともそばについては、もりそば500円以上のソバ屋の味を上回るといってよいほどだ。チェーン店ではないのにチェーン店の雰囲気というのも不思議。同じ会社のブランドで信州屋とは全くイメージの2・3階にある料理店山城庄蔵は、月替わりのコース料理だけで、価格の割に驚くほど内容がよい。
江戸前の四天王とは、そば、鰻、鮨、天ぷらとか。これらを屋台の気分で食べるのが江戸流とすると、ソバ屋で憩うというのは昭和のものなのかもしれない。昭和文化が日本文化ではない。鮨も立ち食いが増えてきた。鰻のうな鐵も屋台感覚といえる。天ぷらも信州屋で食べればよい。平成も20年代になると江戸に近くなっているようでもある。
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