串焼きの千羽(3月20日)
その昔、蕎麦屋、寿司屋(刺身)、おでん屋、焼鳥屋は互いの領域を侵すようなものは出さなかった。しかし今ではそれぞれのメニューをすべて揃える居酒屋が多い。居酒屋では串にさして輸入した冷凍ものを、解凍して焼き、焼鳥として出すのが普通なのだろうが、焼鳥は店主が肉を串に刺す小さな専門店にこだわりたいもの。
千羽は年配のご夫婦が営む本格的な焼鳥屋さん。神泉仲通りでずっと営業していたのだが3、4年前に神泉駅のトンネルの上に引っ越してきた。踏み切り横から階段を上がり、2メートルほどの道にそったラブホテルの向かいにある狭い入り口の奥にある店だ。下には井の頭線のトンネルがある。神泉駅のすぐそばなのにまさに隠れ家。以前に店のあった場所はまだそのままになっていて、その入り口に引越し先が張り出されている。それを見て電話してくる古いお客もいるほど固定客を相手にしている店だ。20代の人たちには周囲の刺激が強すぎて、店の前の道を通ることも難しいかも知れない。看板を見ても予備知識なしに入る客はいないだろう。
その看板には串焼きとある。焼鳥といった方が馴染みやすいのだが、鳥肉ではなく豚肉を使うものもあるのでその方が正確だからか。焼鳥屋の多くは豚肉を使っているという。
焼鳥屋とはいえ、客の要求に応えるには焼鳥だけのメニューというわけにはいかない。カレー煮込み、味噌焼きといったユニークなものもある。それでも焼鳥屋いや、串焼き屋としての自負は強い。中でも自慢なのが千羽焼。つくねの一種で野菜を練りこんだこの店にしかないもののようだ。
ミシュランの星に価値を見出す人も多い一方、できるだけ手頃な価格の店で集まろうという傾向も出てきている。先日は神泉仲通りの喫茶店を夜の時間借り切って、企業の懇親会らしきことをしている光景を見た。同じ日の夜、百軒店の店でも大企業の支店一行らしき人たちがちょっとフォーマルな感じのする会をやっていた。ひところのように気取った会場を使わなくてもいい、そんな会場はもう飽きた。古い感じの店の方がかえって新鮮だ。安ければそれだけで魅力がある。といったことか。時代の空気もそうさせるのかもしれない。
でも千羽は味でも立派に勝負している。一人で焼鳥が食べたくなったらこのちょっと怪しげな場所の焼鳥屋さんをのぞいてみるのもよいだろう。若い客が騒ぐ店ではない。オトナの店としての味わいがある。実は目立たないけれど百軒店・円山町はそんな店ばかり。
千羽は夜中の2時までやっていているので、歩いて帰れない人はそのまま向かいのホテルに泊まることもできる。雨が降っても傘はいらない。
以前の店の跡
店の前の通り
神泉駅踏み切り横の階段
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